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「アーニャ!スザク、知らないか?」
タラップを駆け下り、ピンクのほわほわとした頭を見つけてジノは駆けつける。
新エリア11総督を助けてからスザクは総督にかかりきりなのか姿を見かける事はなかった。
戦闘後にアーニャ、そしてスザクの姿を見ないと妙に落ち着かない。
ひょっとしたらアーニャはスザクを見たのかもしらないと問い掛けると、振り返ったその姿は無表情の中妙に気落ちしているように見えた。
「アーニャ?」
「スザクに…怒られた。…スザクは、今、部屋。」
ん?と片眉を跳ね上げてジノは少し驚いたような顔をした。
スザクが怒る?アーニャに?自分は幾度となく怒られた覚えがあるがアーニャに怒るというのが想像がつかない。
そもそも、何でスザクが怒るのだろう。
わからないまま、気にするなよ、とアーニャの髪をかいぐりまわして笑いかけ、スザクの部屋へと向かった。
エリア11の事になってからスザクは微妙に顔が硬い。顔だけじゃない、雰囲気もだ。
アーニャに怒るという事は神経も尖っているのか。
とりあえず、戦闘後なのだから一目様子をみないとと焦燥感さえ伴なって部屋への廊下を駆け抜ける。
ジノが離れる間際にアーニャの伸ばした手は届かなかった。
「…スザクはジノにはもっと怒ってるのに。」
今行ったら、逆効果だろうとぽつりと小さく呟くが、ジノに届くはずもない。
しかし同時にアーニャは伝えられなくてもいいかと思った。
ジノの方により怒りが傾いているというのはどういう事か…それが分からない程に愚鈍ではないつもりだ。
少し、ジノが羨ましくて…寂しかった。
「スーザクぅー!!いるんだろー?」
珍しくスザクの部屋には鍵がかかっている。しかもジノに教えられた暗証番号を変えられてしまっていたのか開かない。
返事も、ない。
「スザク、おい、スーザクッ!なーに怒ってるんだよ、おーい?俺だよ、ジノだって!」
扉をドンドンと叩いても返事はないが、気配は扉の向こうから音がしないながらに感じる。
それに暗証番号をわざわざ変えているという事は部屋の中にいるという事ではないだろうか。
元々部屋に誰がいても頓着しない人間がスザクだ。それが鍵をかけているという事は中にいる、一人でいたいのだろうと確信が強まる。
でも、アーニャをあんなに落ち込ませて放っておく気もなければ、気になる事を放っておく気に今は成れなかった。
手早く暗証番号を解除して扉を開けば、今度はチェーンがかかっていて固まる。
部屋の電気も…ついていなかった。
「スザク?おーい、スザク……何やってるのかなーチェーン、解いてくれよ。頼むから。」
扉が開いた事に気付いたのが、部屋にぽっかり開いた闇の奥で身じろぎしたような気配が伝わった。
それでも、こちらに近付きチェーンを外してくれる気配はない。
「スザク?スザクさーん、スザクさまーねーってば…………スザク?……スザク!」
がちゃがちゃとチェーンを外そうと格闘していたが、かすかに鼻腔に漂った錆びついた空気に声が固まる。
扉が壊れるのも気にせずに体当たりをすれば、あっけない程簡単にチェーンが壊れた。
転がるチェーンを気にする事もせずにジノは闇の奥へと入り込む。
ぽっかりと開いた入り口から四角い光が差して和らいだ闇の中、スザクの姿は簡単に見つかった。
部屋の隅で、蹲っている。
ジノが入って来ているのも分かっているのだろうに、膝に顔を埋めて上げもしない。
握り締めている二の腕に力がこもりすぎているのか、カタカタと振るえて、白い上着に血が滲んでいた。
血の匂いの原因はこれかと、ジノは縁起でもない自分の憶測に呆れて笑い、同時に安心してスザクの前に座り込んだ。
「…スザク、血が出てるぞー?」
怯えているように震えてみえるスザクに、出来るだけ優しく、怯えを解くように話し掛ける。
そっと、頭に手をおくと、ビクッと大袈裟に思える程に身体が跳ねた。
はて、アーニャには怒っていたといっていたのに、これでは……怒られた子供みたいなのはスザクの方だ。
合致しない符合に、どうしたものかと、ふわふわの髪から手を離し、とりあえず傷を抉り続けている手を退かそうとスザクの両手に触れた途端――
「触るなッ…!」
バシッと音を立て、寄せた手を撥ね付けられた、やっと顔を上げたと思えば、その双眸は手負いの獣のようにぎらついている。
―――ぎらついているが…。
「…スザク?」
満たされた涙に揺らめいて、子供のように頬から顎にかけて濡らしていた。
アンバランスさに息を呑む。
ジノのその反応で、泣いている事に気付いたとでもいうように、スザクは手の平で乱暴に涙を拭うと再びジノから隠れるように膝に顔を埋めた。
まるで殻にでも篭っているように。
そこからくぐもった声で、事務的な声がジノに届いた。
「ジノ、アーニャも……もう本国に戻って。」
内容の意図が掴めずにジノは顔を間抜けな声をあげた。どういう意味で、どういう理由で。何で。
「は?」
「聞こえなかったのか?……使えない戦力はいらない。ブリタニアに帰ってくれ。」
ジノは顔を強張らせた。使えない?…ラウンズで第三席を預かるこの自分が?意味がわからない。
「……エリア11配属は、畏れ多くも皇帝陛下直々のご命令だ。」
「陛下には僕から話をつける。」
にべもない言葉に、何を言えばいいのかわからなくなる。確かに、皇帝陛下は痛くスザクを気に入っている。
それはこの間の謁見でも、御前試合の陛下の態度でも感じられた。
スザクの頼みならあの皇帝陛下なら受け入れるだろう。
しかし、それでも、だ……納得がいかない。何を怒っている?
「ラウンズが…俺達がそこいらの兵力に劣るとでもいうのか。」
「そうだ…」
スザクに対して力になりたいと思っている気持ちは、誰にも負けない。多分アーニャもだ。
その気持ちを踏みにじる気か、力だってある。とんだ侮辱だ。納得出来る筈がない。
声が、震えていないといいが、多分無理な相談だろう。
ふつふつとした怒りにジノの手も震える。握った拳に切りそろえた爪が食い込んで痛みを感じた。
「理由、教えてくれ。」
辛うじてそれだけを言うと、泣きたいのはこちらだというのに、さらに目の前の小さな身体が何も言わないまま震えるから気が削がれた。
これではまるで弱い者虐めだ。
「……油断…」
「ん?」
暫く根気良くまっていると、消えてしまいそうな程小さな声が聞こえた。
「…油断、するなって…言った……」
…あぁ、…怒っていたのは、そこか。
確かに自分達は油断をしていた、本気を出してもいなかった、遊び感覚であった所は拭えない。
その隙をつかれて、急に段違い格違いにパワーアップをはたしたあの赤い機体に遅れを取った。
でも、それにしても解せない。
黒の騎士団に顔を潰された形になったとはいえ、そしてスザクは手柄に貪欲な所があるとはいえ。
人の失敗で足を引っ張られたなどと怒る人間ではない。
それに、今のスザクの状態と発言はどうしても結びつかなかったのだ。
「……また、失うかと……」
「…スザク?」
「…また、大切な人達を、失ってしまうのかと…」
何時しか事務的だった声は、再び涙に濡れてか細く震えて……台詞の内容と今のスザクの現状。
アーニャの顔を思い返すとさすがに鈍くても合致がいく。
「………死なせたくないから……軍に入ったのに……」
消え入る声と相俟って酷く儚く見えるその姿を目の前にして、ジノは嬉しくて身体に震えが走った。
(……どうしよう、すごく嬉しい…)
スザクには悪いが顔が思わずにやけそうになる。
今、彼は何といった?大切な人だと―――打ち解けてきてくれてはいた、だが…はっきりと言葉に出して貰えるとは思ってもみなかったのだ。
溜まらずににジノはスザクを抱きしめた。
「……放せッ…!僕は……ッ!」
抵抗に腕を振り解こうとスザクがもがくがもともとの体力や体格はジノの方が上だ。
その上この体制ではどこまでもジノが有利、放す気などもとより無くてジノはビクともしない。
「スザク…ごめん。」
耳元で囁くと、拒むように顔がさらに膝に埋もれた。
「ごめんな、スザク……もうしない。油断は絶対にしないから。」
返事はない、しかしスザクの抵抗はなくなり動かない。
「お前をおいていかない。絶対に…」
ブラックリベリオンでどんな経験をし、主以外の誰を失ったのか…。
どんな思いで、何を考えて、どんな意味がスザクの吐露した言葉に篭っているのかまではジノには全部を知る事は出来ない。
それでも…、それでも―――
ふわふわの髪に手を絡ませ、宥めるように背中を撫でながら、今腕の中にある大切な人間だけは絶対に守ろうと心に決めた。
彼が一番に望んでいるのは、それでないと分かってはいても。
「俺達は…俺は…強いから、だから……お前の傍にいさせて?」
了解もないが、否定もないという事は許しだろうと決め付ける。
何も言わないままに、すがるように自分の膝を抱きしめる力を強めるスザクにジノは困ったような笑みを浮べた。
いつか、その腕を自ら自分の背に回してくれる日がくればいいのに―――と。
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突発妄想。
紅蓮のレンジでチンに早くも退場かと心臓がとまるかと思いました。
心臓に悪いアニメです。