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「枢木少佐、今晩は予定あいてる?」
ランスロットから下りるとロイドにがっちりと袖をつかまれた。
「えっと、今日ですか?」
「うん、そう。今日。」
見れば、顔が少し青いとも取れなくもない、深刻そうな顔をしている。
自分の事を階級で呼ぶ時は、かなり真面目な時だという事をスザクは理解していた。
「何かあったんですか?」
尋常じゃないロイドの様子に、じっと顔を見上げて問い掛ける。
「セシル君がさ~…今晩は和風クリスマスパーティーするんだって張り切っちゃって。」
数日前から和風クリスマスをすると言って材料を買い揃え、ロイドにはスザクと他特派メンバーを確保するにように言い渡していたらしい。
「和風…クリスマス?」
クリスマスに和風があるんだろうかとか、料理はやっぱりセシルさんが作るんだろうかとか気に成る所はかなりある。とてもある。
「そ。だからさぁ~スザク君。逃げないでね?」
座った目で見られて、ひきつった笑みが浮かぶ。ロイドのこの様子だと料理を作るのはセシルさんで確定事項だろう。
遠慮したい気は頗るするが、残念ながら年末という事でここ暫くは軍に篭りきり、学校にも行っていないしルルーシュ達とも会っていないので何か予定があるわけでもない。
無いっていってと肩を掴んで揺さぶり始めたロイドの頭に、七面鳥とかかれた大きい袋がゴキンと乗った。
「ぽぺっ」
「……あ」
ロイドさんが、潰れた。
「ロイドさん、確かにお願いしたのは私ですけど、何無理矢理脅してるんですか。スザク君にだって予定があるでしょう?」
「いえ、特に予定は…セシルさん、ロイドさんの意識もう無いみたいです。それより、その七面鳥…ひょっとして。」
「ええ、今晩使うの。スザク君は七面鳥は好きかしら?」
「はい、とっても…じゃなくて、それ、ひょっとして冷凍じゃ…」
袋には7㌔と書かれてある。見た事のない大きさだ。
冷凍の硬度なら十分すぎる殺傷能力を有する。
「よかったわ。ふふ、買ってきたばっかりなの。奮発しちゃった。」
うきうきと楽しそうにするセシルに笑みを浮かべたまま、心の中でロイドに念仏を唱えた。
「…で、結局3人だけになっちゃったわね。」
これまたセシルが買って来てくれたのだろうクリスマスツリーの飾りつけをしていた手を休めて、スザクは後を振り向いた。
「仕方ありません。クリスマスですから。やっぱり、恋人や家族と過ごしたくなるものでしょう?」
そうね…と少しだけ残念そうに言うセシルの前には見た目は美味しそうだが、和風、と言い張っただけはあり、スープ皿に入った具が怪しげなお味噌汁、ワサビと餡子の盛られたターキー等、どこかズレてる感じのする料理が並んでいる。
「じゃぁ~丁度いいんじゃないの~?僕達だけでさぁ~」
何時の間にか復活して氷嚢を当てたままのロイドがセシルの頭にぽんと手をおいて、スザクの頭をわしゃわしゃと掻き混ぜる。
ふ、と息の抜ける音がしてセシルが微笑んだ。
「そうですね…家族水入らずになるのかしら?ロイドさんも偶には良い事をいいますね。」
たまには余計でしょ~と反論するロイドに合わせてスザクも笑う。
(…ちゃんと笑えているかな。)
でも、スザクは思う。
(僕達は家族じゃない。僕が歪めた日本の未来。そこで生まれた欺瞞だ。ただ、僕が、ここの優しさに溺れているだけで。でも、僕はそれに甘えちゃいけない、筈だ。)
ロイドとセシルを見ていて、温かい気持ちになれる。でも、同時に焦りと罪悪感も生まれる。
(自分は軍人で、軍人は死ぬものだ。自分の命は守る者の物であって、自分の物じゃない。そもそも、だから、こういう行事だって良くない。だって、これは、ダメだ。だって、楽しい)
二人を見ているのが辛くなって目を逸らしてクリスマスツリーの飾り付けに没頭する。
…しようとして難題にぶつかった。次に飾るのは、どうやらこの注連縄と門松らしい。
どこにどうやって飾れというのだろうか。
揃えられた箱を見れば、中には鏡餅やら獅子舞がいる。確かに和風ではあるが、何か違う。
クリスマスとは明らかに違う。クリスマスといえば…もっと、こう……。
(…こう?そういえば、クリスマス祝いなんて―――本当の家ではやった事なんて無かった。)
お祭りというものがある自体は知っていた。でも、どういう祝うかまでは知らなかった。
どういうものか、初めて知ったのは…確か…
(ルルーシュが、ナナリーのためにやったクリスマスパーティーが初めてだった。)
そこで、初めてスザクはクリスマスパーティーというものを知った。
でも、その時もクリスマスツリーはモミの木ではなかったし、飾りも折り紙で作ったものだけだった。
だけど、その時のクリスマスがきっと、最初で、最後の本当の…
「まさか、またクリスマスを祝える――」
――まで、生きいないといけないなんて、思ってもみなかった。
「んん~?」
零れた声が聞こえたのだろう。ロイドが不思議そうに背を丸めてスザクの顔を覗き込む。
「あは~っスザク君はクリスマスパーティ~なんて久しぶりかぁっ」
「のうゎッ!?ロイドさん?」
急激に過去から現在へと意識が引き戻されてスザクは仰け反った。
「きゅ~に大声出さないでくれる~?心臓にわるいからさ~」
頭をいっそう激しくわしゃわしゃとかき回され、唇を耳の近くに寄せられた。
温かい息が耳を擽る。
「子供の内にさ、死ぬのは止めて欲しいんだよね。ランスロットが壊れちゃうのは困るし。」
急に話が飛ぶロイドの言葉に心を読まれた気がして背中が跳ねた。
違う、死にたいとは思って無い。だから、読まれたんじゃなくて、意味が解らないだけだ。
ロイドをきつく睨め上げた。
「確かに子供かもしれませんが、軍人ですから命の有無は僕が決められる事じゃありません。――ランスロットは、何度か破損させてしまって申し訳無いと思っています。」
けれど、ランスロットの事はともかく、他は今言われる事でもないし、関係がない。
その頑なな態度にロイドは溜息を一つつく。
「そんな顔、しないでくれる~?クリスマスが台無しだよ。」
囁いた後、これで話は終わりだと耳をぺろりと舐め上げてするりと猫のように離れた。
「…ッ」
ぬめった感触に背を泡立てて、耳を押さえてロイドと距離を取る。
言われた事の意味が解らず、とりあえず済みません、と謝る。
すると、にゅっと長い手が伸びて頬を思いっきりひっぱられた。
「ひょ、ひょいひょひゃん、ひゃひふふんふぇふふぁ!」
「あはぁ~いい顔~!やっぱさ~こういう顔じゃなくっちゃね~!」
何が嬉しいのかクネクネと体をくねらせて嬉しそうに笑うロイドの頭にフライパンがふってきた。
ゴンッ
「あ…あはぁ…」
「…ロイドさん、大丈夫ですか?」
ゆっくりと地面に沈んでいくロイドを見つめていれば、セシルが満面の笑顔でスザクに応えた。
「だいじょうぶよ、スザク君。ロイドさんは三回くらい叩かないと頭の故障が直らないの。」
…壊れかけたTVじゃないんですから。とスザクは言う事が出来ず。
「まったく、手伝いもしないでスザク君をからかって何してるんですか!セクハラっていう言葉、しってます?」
「ごめんなさいごめんあさいごめんなさいごめんなさい許して~~」
セシルはずるずるとロイドを引きずっていった。
「とは言ってもさ~セシル君だって納得いってないでショ。」
「…何の話です?」
「惚けても無駄~スザク君の事だよ。」
小さくてもパーティーが終れば、倦怠感というか、寂しさが残る。
そんな時に、先に帰らせたスザクの話を急にロイドはセシルにふった。
「やっぱり、お友達と過ごした方が良かったんでしょうか。」
クリスマスパーティーで笑ってはいても、それはどこかアンバランスさをセシルも感じてはいた。
たまに、どこか遠くに思いを馳せるような目に、少し苛立ちもする。
「意味ないでしょ~前もって約束してたならともかく、そうじゃなきゃ遠慮するよ、あの子はさぁ。ここ最近軍にしばっちゃったからねぇ~まぁ~ランスロットの為だから当たり前っていうか当ぜ……嘘です冗談、ごめんなさい。」
セシルの目線が鋭くなって慌ててロイドは頭を下げた。
スザクはもう寝ている頃合だろう。
寝ているようでいて、セシルが近付けばいつも目を覚ますスザクだ。
起こさないように、スザクの部屋ではなく、ランスロットの中にセシルは、ちょっとしたプレゼントを置いた。
明日の機体テストの時には気付くだろう。
「私達じゃ、力になれないんでしょうか。もどかしいですね。」
ぽつりとランスロットを見上げて呟いたセシルは、ロイドの顔を見る事は出来なかった。
(そもそも、面白くない。)
自分が気になってるのに、自分を見ない。
(ランスロットのパーツくせに。ランスロットはちゃんとボクに応えてくれるよ?)
ランスロットは応えてくれて、なんでその部品の君が応えてくれないの。
わからない苛々に歩を進めたのは、スザクの部屋だ。
セシルは起こさないようになんて配慮をしていたが、そんな事は関係ない。
(どうせ、今日のセシル君の料理を食べたダメージとちょっと起きる位の健康上の影響を考えれば前者の方が影響高いでショ)
別にプレゼントを自分から用意したわけじゃない。
セシルに言われてセシルが選んだものを取り寄せたに過ぎない。
(でもね、このボクがランスロットじゃなくてパーツの君にプレゼントしてるんだよ。)
遠慮も何もなく部屋の扉を開いて、電気もつけずにスザクが寝ているベッドの傍まで近付いた。
スザクはまだ、目を覚まさない。
「まったく、最高のパーツかもしれないけどね、最悪のパーツだよ。」
溜息を一つはいて枕元にプレゼントをひっかける。
作り主の頭をこうまで悩ませるのはパーツの分際で普通に考えて可笑しい。
あまりに面白くないから、ふわふわした髪をひっぱった。
「…ぅ…んッ」
それでも身じろぐだけで動かない。軍人としてどうなのそれは。
気持ちよさそうに、少し力の抜けた笑みを睨む。
(何の夢をみてるんだか。)
無意識か意識敵かは知らないが、パーティーでの作った笑みとは全く違う。
自分の苛立ちをそっちのけで、あまりに気持ち良さそうに寝ているものだから意趣返しに軽く唇に唇を重ねる。
がさついた感触に眉を顰めて指で自分の唇を触った。
(ああ、全く……面白くない)
いつか、君の時を動かす要因に、ボクは成り得るんだろうかなんて、一瞬でも望んでしまうなんて。
ホント、面白く無い!!
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ロイスザと言い張る。
思ったようなロイドさんとスザクさんがかけません。