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マオスザ/マオが浚ったのがスザクだったらパラレル



“”“””“”“”“”
 
 小さい子供の泣いている声が、聞こえた気がした。





 「君が枢木スザクかい~?」

 学校から寮へと帰る道の途中で後ろを振り向くと、背のひょろりと高い白い男が立っていた。

 「そうですが…あなたは?」

 誰とも知れない人間に、やや身構えつつも校舎内の事だ。
 名誉とはいえ、アッシュフォードの校風とルルーシュのお陰かだいぶ風当たりも良くなってきた。
 少し気を抜きながらも問い掛ける。
 男はニタリと笑みを浮かべ、そして、どこかふらりふらりと歩を進めながら口を開いた。

 ――――君の罪を、知っている―――と。





 ひっくひっくと小さな子供が声を殺して泣いている音が聞こえた。





 気がつくと、体が動かなかった。薬物でも使われたのか、痺れが残っている。頭が上手く働かない。
 手が後ろに纏められていて動かない。目は何か布のようなもので覆われているようで情報が極端に少ない。
 現状を把握しようと皮膚感と聴覚と嗅覚を総動員する最中に耳につく声が響いた。

 「枢木スザク…あぁははッ!君が枢木スザクねぇ~?」
 
 若い男の声。でも、かなり子供っぽい口調と性格に思えた。きっと、先ほど声をかけた男なのだろう。ぱんぱんぱんと手を叩いているような音も聞こえる。

 先ほど?…時間は一体どれくらい経っているのだろうか。
 目的は?男の言動から考えれば自分の事を直接知っているわけではないのだろう。
 学園内だからと思ったが、軍関係?
 先ほど男は何て言っていた?―――そう、確か、何か…

 (俺の、罪を、知っている。――――誰だ、こいつは。)

 確かに、そう言っていたのだ、ここにいる男は。
 自分の事を知らないのに。

 (馬鹿だな、俺は。また、学習無く…取り乱したのか。いい加減に――)

 しろ!自分に叱咤しても、男の言葉を思い出した途端に心臓がきゅぅと縮む。
 じとりと嫌な汗が全身に回る。
 
 「なんだ、あの泥棒のイメージと随分違うじゃないかぁ。どろどろで~あぁ、君、死にたいんだぁ?」

 落ち着こうと自分に言い聞かせている時に追うように言葉がピンポイントで吐かれる。
 びくんとスザクは肩を跳ねさせた。

 「でも死んじゃいけなの~?あははは!死にたいって思い込んでて本当は死にたくないんじゃないのぉ?」

 否応なく続けられる言葉に目を強く瞑るが意味が無い。

 (違う。そんな事、思っていない。落ち着け。何でだか分からないけど、この男は俺の罪を知ってる。それだけだ。ただの心理攻撃だ、気をしっかり持―――)

 「あははぁ~!そうそう、そうやって自分に言い聞かせて偽ってるんだよねぇ~?真似したってさぁ、君は君が憧れてる存在にはなれないのにねぇ~」

 憧れている…存在。

 「ひがぁ…!」

 パッと夏の映像がフラッシュバックする。蝉の声が頭に響く。同時にスザクは声を張り上げた。

 違う、と言おうとしたのに呂律が回らない、薬品が…まだ残ってる?
 分析に逃げて言葉を聞かないようにしようにも、声はさらに追いかける。

 「また逃げるのか~い?違わないよねぇ~?君は皇子様に憧れて彼みたいになりたかったんじゃないのぉ~?」

 猫が鼠で遊ぶような。声に楽しくて仕方が無いとでもいう響きが残る。
 耳を塞ぎたくとも手が縛られて塞げない。目だけをぎゅっとつぶって頭を振る。
 
 (違う。ルルーシュみたいになりたいわけじゃない。なれるわけがない。わかってる。わかってる!)

 「いーや~?わかってないねぇ…あんな事をした君がルルーシュになりたい?なれると思った?あははははっ!嘘で凝り固まってるだけじゃないかぁ~。ルルーシュになりたいと思ってる事を知ったらカレ、どう思うだろうねぇ~?」

 ひゅっと喉が鳴る。
 声から身を守るようにスザクは身を丸め硬くした。

 違う、違う、ちがう、ちがう、ちがう、チガウ、チガウンダ!

 「違わないだろぉ?罰を受けて許されたいんだよねぇ、正当化したいんでしょ~?でもさぁ、どんなに贖っても贖いきれる罪じゃないよねぇ~?このっ、父親殺しが!」

 「…ッ!!」

 ―――息が出来ない。そして、スザクの意識は深みにぬっぷりと纏わりつかれてずぶずぶと下に沈んだ。

 「さぁ、ルルーシュ。早く来ないと壊しちゃうよぉ?お前がいけないんだ…シーツゥーをボクから奪うからさぁ~!」

 目を開いたまま、もはや声も聞こえないのだろう。浅い息を早く何度もつき体を硬直させたまま動かない男に、マオは冷めた目を向けた。
 ひくりと頬をひきつかせ、フンと鼻白ませて動かなくなったスザクの髪をぐいと引っ張って、遠くを見たままピントの合わない目を睨んだ。

 「甘えん坊がッ」

 初めは妹の方を浚って、あの自信満々な顔を屈辱に歪ませるのもいいと思った。
 この間の茶色い髪の長い女。あの女の時は傑作だった。あんな風に。
 屈辱と絶望に染まり懇願している時に、あいつの所為で目の前の妹が死ぬというのも面白そうだと思った。
 でも、それじゃあ、つまらない。それで、絶望からあいつが死に逃げたら腹が納まらない。

 (ボクにはC.C.しかいなかったんだ。それを奪ったんだからさぁ~あ?死ねない程度に、ゆっくり絶望を与えてやるんだよぉ)

 一人にさせたいけれど、どうせ一人にさせる事は出来ない。
 ギアスの力が違う。
 C.C.だけが唯一大丈夫な人間だった。他のは雑音がうるさい、聞きたくない言葉が耳につく。だから―――

 (妹の方は壊れなさそうだったから面倒だったけどさ~まさかこっちがこんなに楽にいけるとはね~)

 運が良い。

 「それにしても、う~る~さ~い~なぁ~頭ん中、ピーピーピーピー餓鬼みたいに泣いてさぁ」

 苛立たしげにマオは乱暴な手付きで掴んでいた髪を手放した。

 (こいつとボクは同属じゃない。同じじゃない。本当の一人と違う!だってギアスがないじゃないか!望んで殻に閉じこもってるだけだ、どうしようも出来ないボクとは違う、だから黙れ黙れだまれ―――うるさいから泣くなッ!)

 カチカチカチと思考を飛ばすようにマオはイヤホンの音量を上げた。

 「そうだよね、シーツゥ~?ボクは君だけなんだよぉ、本当に君だけなんだ…だから…だからさぁ、早く…早く戻ってきて。戻ってきてよぉ…」






 子供の泣き声にひどく親近感がわく。近づきたくなった。 

    
 
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――――――
長くなったのでぶつ切りで。マオスザと言い張る。
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