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―――君が僕を守る代わりに僕が君を守る…相互扶助だ!―――
優しい思い出と眩しい黄色
金髪碧眼は別に珍しくない。
生徒会長ミレイ・アッシュフォードも金色の髪だったし、碧眼だった。
碧眼というわけではないけれど、シュナイゼル・エル・ブリタニアもクロヴィス・ラ・ブリタニアも金色の髪をしていた。
にも関わらず、彼を見たときだけ、昔の声が頭に鳴り響く。それは性格による所が大きいのかも知れない。
ミレイ・アッシュフォードは確かに太陽のように明るくもあるが、太陽と言い切るには影もある。
だからかも知れない。
あの台詞を言われた時は雨が降っていた、それでも向日葵と太陽と雲ひとつない青い空が昔の記憶の象徴のように目の裏に焼きつく。
ジノは太陽や向日葵、青い空を彷彿とさせるのだ。
それともジノ・ヴァインベルグを見ていると昔の自分を思い出すからかも知れない。
もしくは、自分の閉じ込めた何かをこじ開けるような事ばかり言ってくるからかも知れない。
何にしても、枢木スザクの頭の中ではジノ・ヴァインベルグに警報がなっていたのだ。
だから、故意に感情を向けなかった、興味を寄せなかった。反応を返さなかった。
「僕は……いままで、何のために……」
目の前に広がる眩しい黄色を愛しげに撫でるとぬるりとした赤が手を濡らす。
自分を庇うように包み込むようにして目の前に広がる黄色にスザクの唇は震えた。
呆然と肩ごしに見える黒い仮面があざ笑う。
煙をあげる銃口、昔優しく笑いかけた子供の頃、再会した頃の微笑みが頭にちらつく。
―――生きろ…!―――
頭の中に、いつでも自分を守るために発せられた声が響く、スザクの瞳に赤い色が点滅した。
手につく赤い色と同じ、それ以上に赤い色。
酷く喉が干上がって痛みさえ伴う、怪我など自分は何一つしていない筈なのに。
「……スザク…」
いつも自分を抱き寄せていた迷惑にすら感じていた腕からどんどんと温度が失われていく。
それが嫌で分け与えるようにジノの体を抱き寄せると耳元で熱い吐息が弱弱しく名前を呼んだ。
「ジノ…しゃべるな、しゃべっちゃ、駄目だ…」
きっと、体が冷えていくのは、しゃべる度に熱を吐き出してしまうからだ。
だから……
「また、お前は泣くんだな……スザク、笑って?」
俺、お前の笑った顔が一番好き。
間近で囁かれた声にゆっくりと事実を否定するように何度も頭をふる。
何度も、何度も、何度も、嫌だいやだイヤだと言葉をいっているようで声は出ているだろうか。
目の前に広がる力強い微笑みに、笑みを返そうとするが顔の筋肉が動いている気がしない。
紺碧の何時もの力強い青い瞳が虚ろで、消えていく光に耐え切れない。
何でこんな事になったんだろうか、こんな事になるなら彼に近づかなければ良かった。
何で自分が大切に思ったものはどんどんと消えていくのだろうか。
父さん、日本、日本人の誇り、日本人としてのプライド、初めての友達、ユーフェミア様
すでにわかっていた筈だ。
近づいてはいけないってわかっていた筈だ、わかっていたはずなのに。
だってそれが父さんを殺した罰なのだから。それなのに――
「枢木スザク……」
眩しい黄色の肩越しに、聞きなれた低い声が自分の名前を呼ぶ。
声を聞くたびに、自分の中に確固としてあった優しい思い出がこなごなに消えていく。
向日葵の花弁を毟り取るように抜け落ちて、向日葵の花がしぼむように、色あせていく。
「お前がいけない――お前がその男をに近づいたから。」
そう、俺がいけない…俺は誰かに心を向けていいような人間じゃない。許されない。それなのに…
「ジノ…、ジノ…ごめん…ごめ…」
「……ごめん、ごめ……ジノ…」
「おい、スザク、起きろって!」
何かに魘されて涙を零す同僚にぎょっとして肩を揺さぶる。
枢木スザクが最近やっと笑ってくれるようになってきた。
初めはちょっかいをかけても何をしても無反応、事務的、無興味。
さすがに悲しくなり挫けそうになりもしたが根気良くちょっかいを掛け続けた甲斐があるというものだ。
「……ジノ…ふぇ?…あれ……」
笑うようになると同時に悲しそうな痛ましそうな顔をこちらに向ける事も多くなった。
どうしてかまでは分からない。分からないがそういう顔を向けると暫くは情緒不安定になる事が多いらしい事にも気づいてきた。
「おはよ、スッザク…昨日眠れなかったのか?」
寝ぼけて状況が読めていないのか、あたりをきょろきょろと見渡す姿が酷く子供っぽい。
流れる涙を手袋で拭ってやると、片目を瞑ってじっと存在を確認するように自分を見つめてくる。
「…いや……眠れた。…あの、何か…」
恥ずかしさもあるのだろうが、それ以上に不安に翠の瞳が揺れている。
こんな顔をされるから構いたくて仕方がなくなる。頭をポンっと叩いて出来るだけ軽く笑って見せた。
「寝言か?そうだなぁ~…」
聞こえていたのかと思ったのか、びくっと肩が竦む姿にぽんぽんと頭を何度も軽くなでるように叩いて言ってやった。
「ジノ愛してるっ今夜部屋に遊びに来てって言ってたぜ?いや~俺って愛されてるよな!」
「…そう。」
てっきり機嫌が急降下して拗ねるか何かすると思っていたが微笑みを返すのだからたまらない。
誤魔化すように自分より一回り小さい華奢な痩躯を抱き寄せる。
「お前って…あ~……こっの……本当に行くぞ。」
天井を仰いでどうしてくれようとふわふわの頭に顎をのせると腕の中でもがいてくる。
その温かみと感触が心地いい。
戸惑う声が聞こえてきた。
「好きにすればいい…部屋にはいれない。」
少しだけ焦ったような、拗ねたような声に笑って、好きにすると言ってやる。
自分に対して押しつぶされそうな程に痛々しく謝っていた事だけは、何故か指摘してはいけない気がした。
言ってしまったら、全てが壊れてしまう。そんな気がしたのだ。
自分達の関係も、スザクも。
もっとも、スザクは自分が必ず何を賭しても守るから壊れるという事はない筈だけれども。