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拍手ログ1
ユフィスザ前提アニャスザ…?
『黒白世界の極彩色』様よりお題をお借りしました。
お題名“移ろう四季の色4題”です。
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―――学校、ちゃんと言ってね…―――
柔らかな桃色の洪水
ふとした瞬間に耳をつく声に、思わず目を緩める。
ブリタニア本国にも桜の木はあった。
ラウンズが待機する部屋から歩いていける所にある、よく日の当たる小さな庭にあった。
旧枢木邸の中庭にあった木から分けたものだとラウンズとして働く為に本国にわたった時にシュナイゼルから聞かされている。
「…学校には、行きます。いずれ。」
スザクは桜のカサついた幹にふれて、細く柔らかい声を出して上を見上げた。
淡く、しかし生命力を感じさせる花がこれでもかと柔らかく優しい桃色の雲を作っている。
風がひとひら舞って桃色がふわりと広がって流れていく。
目を瞑る――――最後にあの人が倒れた髪の広がりを思い出したからだ。
その桜は枢木邸中庭にあった桜を確かに思い出すほどに花も、木も似ていた。
(よく―――――友達と上った。)
ナナリーの為に枝を折って叱られた事もあれば、友達が枝から落ちて文句を言われた事もある。
掌を強く握り締める。軋むような音を手袋があげた。
「学校には…エリア11にはいずれ戻る……。」
低く強く呟くとスザクは幹に爪を立てて幹を睨みつけた。
多分、戻らされるだろう。皇帝の考えは分からない。
分からないが……ゼロを生かして学園に戻したという事は、スザクが良く知っているエリア11に派遣される事は在り得ない事じゃない。可能性は高いだろう。
(ゼロを殺す、友達を止める、エリア11を手に入れて、そして―――)
にゃー…と足元にいる愛猫が声をあげてそちらを見ようとした時だった。
視野に桃色の…ふわふわとして優しい桃色が垣間見えた。
「…桜?いや…違う…」
あるわけがない、いるわけがない…わかっているにも関わらず駆け出す。
気がはやり、心臓がバクバクと煩く耳を付き、こんな時に上手く動かない足が多少縺れてスピードを落とす。
(確かに…あれは髪だった。桃色で…桃色の……小柄な…)
庭に茂る木々を潜り抜ける、角を何度もまがり、城はもう抜け出たのだろうか?
(不思議だ、おかしい、歩いているように見えたのに、何で追いつけない?とうとう自分は狂ったのか。)
狂った――それは焦りと安堵をスザクにもたらす。柔らかく甘やかしてくれる。それに許せずに胸に爪を立て痛みで考えを振り払う。
(わからないことは、かんがえない。)
目の前に、どこからか、ひらひらひらひらと桃色の破片が舞った。
何度目かの角を曲がった時、柔らかな桃色の洪水が視神経を襲う。
くらりとする……寝不足からか、特区事変から今にいたるまで気を張り詰めていたからか、食べていないからか。
足がふら付いた。
桜に覆われた向こうに、ピンクのふわりとした髪がちらついている。
「ユフィ…ユーフェミア様―――ッ!」
気がついたら声を荒げていた。
ふわりとした髪をもつ影はぴたりととまる。桃色の嵐の中、その姿の境界は酷く曖昧で、軽い酩酊感に似たものをもたらす。
縋るように無様に歩いてその影に近づいていく。
(そう、なんだ全部夢だったんじゃないか。ルルーシュがゼロだなんてある筈がない。)
影まであと数十メートル程。手を前に、何かを求めるように。スザクは前に進む。
(ユーフェミア様が死んでないのが何よりもの証拠だ。)
影はまだ止まっていて、こちらを待っていてくれる。あと、数歩。
思わず顔が綻ぶ。嬉しさに涙を目端に浮かべて。
ふわりと桃色の優しい髪が浮き立ち、影が振り向いて――
(最近ずっと変な考えにばっかり取り付かれていたから、だから―――)
スザクは固まった。
「……誰?」
それまで目に見えていたふわふわの長い髪は消えて長さが変わる。
振り向いた少女は酷く小柄で、無表情で、片手に携帯を携えていた。
問いかけは耳に届くことなく軽い絶望がスザクを襲う。
(そうだ、在り得ないってわかっていただろう。何で本国にいると思っているんだ、俺は。)
「言葉、わかる?」
固まっているスザクに気づいた少女は、スザクに近づいて表情を覗き込む。
気怠けにも見える眼差しが、異邦人であるスザクに気づいて小首を傾げて問い掛けた。
少女をしばし呆然と見つめていたが、さすがに気づいて、スザクは少し慌てた。
「…あ…すみません、人違いを…僕は…」
「くるるぎ、スザク」
少し危うげな発音で少女は答えた。スザクは驚いて僅かに瞠目して少女を見つめる。
「ユーフェミア殿下の名前、呼んでたから。」
興味を失ったのか、スザクではなく携帯を弄り始める少女に、そういえばそうだったと恥ずかしさと不甲斐なさに微かに俯いた。
「アーニャ・アールストレイム。アーニャでいい。」
携帯から顔をあげる事もせずにパチポチと携帯を押している少女から声が聞こえてきてスザクは顔をアーニャへと向ける。
ひらひらひらひらと柔らかい桃色の欠片が優しく舞う。
桃色の欠片にスザクは思い出してアーニャに尋ねた。
「アーニャ、君はいつからこの場所にいたのかな。」
「朝からずっといた。」
答えを聞いたスザクは桜を見上げて、柔らかに桃色の洪水に微笑けた。
(学校には、必ず、行きます。)