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雉も鳴かずば撃たれまいにー。

今更ネタの紫禁城の話。
明るい話ではないです。

それでも良ければ続きから

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 「この前のアイツだろ?手配画像よりずっといいな。ああいうのタイプなんだ」
 
 
聞こえた言葉に、思わず固まった。
 聞き間違える筈のない声…その言葉に内心動揺した自分を表情には出さずに拳を握りしめる。
 当然だ。自分にそんな事を思う資格も、そんな事に現をぬかす資格もない。
 そもそも、相手は男で、自分も男。おまけに相手は大国ブリタニアきっての生粋のお貴族様だ。本気にされていた筈もない。
 いや、それ以前にユーフェミアの汚名を…そしてゼロに復讐を。それだけの為にこの身は存在するのに、何て事を。
 
 (浸食されている……。)
 
 そんなつもりは無かった。けれど、確実に、自分にどこまでもフレンドリーで優しい相手に、温かな人達に、確固としてあった意志を熱湯の中にある砂糖のように溶かされていたのだろう。
 
 スザクは盤上の戦いに目を凝らした。
 
 
雉も鳴かずば撃たれまいに
 
 
 アーニャは同僚の言葉を聞いて、心の中でだけ深いため息をついた。
 前から思っていたのだが、この同僚は……本当に……。
 
 「馬鹿……。」
 
 「ん?アーニャ…何かいったか?」
 
 「別に…。」
 
 手に馴染んだモバイルに、自分の愛機を足下にしてくれた―――そして、これに関しては不可抗力であれ一波乱の原因の一旦を担ってくれた相手を、軽快な音を立てて納めた。
 鋭い視線で相手を睨みつけながら。
 
「……頑張って。」
 
「…?…へ?…何に?」
 
分からないと目を白黒させる同僚に、今度ははっきりと現実に、アーニャは深くため息をついた。
 
 
 
ジノが、アーニャのその言葉を深く理解するのは、先の事として……ちょっとした違和感、異変を感じたのは、その夜からとなる。
 
中華連邦がラウンズ用にも個別の部屋を用意はしてくれたものの、ジノは自分に宛がわれた部屋に泊まる気は毛頭なく、スザクの部屋へとすぐさま向かった。
既にスザクとはそれなりの関係に至っていたし、スザクもジノの事を悪く思ってはいない…むしろ好いてくれているのか、ジノがスザクの部屋に入り浸る頃には、ちゃんと出迎えてくれる事もあったし、勝手に部屋で寛いでいるジノを咎める事もしない。
それまで、あんまり夜遅くまで部屋に戻らない事も多かったにも関わらず仕事を執務室ではなくスザクの部屋で行っていたのを考えれば、わざわざ一緒の時間を作ろうとしてくれていたのだとも思う。
夜も更ければそれなりの行為へと自然と傾れ込んでもいた。
 
だから、ジノはスザクと恋人関係にあるという事を疑ってもいなかった。
はっきりとお互いに、恋人だと言った事はなかったと思うが、やってる事も日々の戯れもまったく恋人のそれにあるのに違いないのだから。
 
にも、関わらず……中華へ来て、一日目も二日目も、ジノはスザクの部屋にずっといたにも関わらず、スザクは自分の部屋に戻る事はなかった。
 
「……どこ、行ってるんだよ、あいつ……。……もう、明日は帰るのに。」
 
何も言われていない。言われていないまま避けられているのだろうか。
フラストレーションがたまっていく。苛々する。
 
中華連邦の4000年の栄華を誇るような、緻密で、しかし派手な装飾のベッド。オリエンタルな部屋の間取り。薫るお香。
何時もと違う、どこかノスタルジーで、尚且つロマンティックただようこの部屋で、それなりに愛と睦合いたいと思っていたのに。
 
昼間は昼間で、披露宴―――ゼロがやってくるまでは、それなりに話す時間も会ったのに、全く会えなくなっている。会議や、ナナリーとの通信でシュナイゼルの部屋にいるとか。アーニャに聞いても自業自得…という言葉しか帰ってこない。
 
(丸で、躰を繋げる前に戻ったような…いや、それ以上か。あの時は私が追いかければそれなりに会えた。…やっぱり、避けられてるな。)
 
おまけに、ゼロが騒ぎをしてくれたお陰で余計に忙しなくなり、ジノもスザクだけを意識する事が出来なくなった。
 
 
 
スザクとちゃんと会う事が出来たのは、紅月カレンを捕虜として捕まえてからの事だった。
だが、それは、会えた嬉しさよりも、衝撃の方を強く齎してくれた。
 
すれ違い様に、暑かったのだろう、スザクがパイロットスーツのチャックを下し首元を寛げている時に、ソレを見つけた。
 
思わずスカイブルーの瞳を見開く。首元から、鎖骨あたりまで無数の――――――
 
喉が干上がり、床がぐらついた気がした。いや…ジノだって今までそうだったのだ。だからスザクだって……しかし、それでも……
 
「スザク……それ……」
 
「……何?」
 
震える指先で、散らばる花弁を指させば、やっと何の事か気付いたのだろうスザクがバッと見事に顔を紅色に染め上げて、チャックを上までしっかり上げる。
同時に、手早く逃げるようにする躰をジノは慌てて腕を掴んで止め。
 
「スザク……相手は……無理矢理、やられたんだろ?……そうだろ?」
 
問うた言葉が乾いていて、自分でも無様に思えた。今まで何人かのお嬢さん方と遊んだ事はある。だけれど、それは多分誰だって本気というわけでは無くて、遊びで。それでもそれを浮気していたと取るのであれば、そうなのだろう。
今までそれを悪い事だとそこまで思った事はなかったが、ここまで、感情を押しとどめられない事だったなんて思わなかった。
目端が歪んでいたのは、きっと涙が滲んでいたからだろう。……どこかで冷静な頭が自分に告げていた。今のスザクはラウンズだ。しかも、ヴァインベルグに負けず劣らずの、シュナイゼルの後見でもあるアスプルンド家が後見であり、シュナイゼル・ロイドとも懇意にしている。何より、皇帝の愛妾の噂が出る程に、皇帝の覚えもめでたい。
一回の兵士だった時ならいざ知らず、今のスザクに無理矢理無体を働けるような人間なんている筈もない。
分かっている。それでもジノはスザクに無理矢理だったと言ってほしい気持ちが―――スザクの身を思えばそうでない方がいいに決まっているのに―――留める事が出来ずに、じっとその緑色の瞳を見詰めた。
 
スザクは……少し辛そうな、そして困ったような顔をした後に……呆れたような笑みを浮べてジノの額を小突いた。
 
「ジノ、人聞きの悪い事を言わないでくれないかな。…それに、その反応……僕たちの関係を誤解されるよ。…知ってるだろう?僕に関わると変な噂が立つ。…それは、君の為にならない。…カレンだって誤解を……困るだろ?」
 
ジノの、回りの音が消える。今、スザクが何を言ったのか。あの痕は何なのか。
分からないままに頭の中がぐるぐるぐるぐると回っていく。
 
困った人だな、とぽんと肩を叩かれて、スザクはジノの横をすり抜けてどこかへと行ってしまった。
 
ジノは言われた事が未だ把握出来なくて……でも、足を動かす事も出来ずスザクの姿が小さく消えてしまうまで、縋るように手を伸ばす事しか出来なかった。
掴んでいた手を振りほどかれてしまった事に、スザクの姿が居なくなってからようやく気付き―――
 
「なんで……カレンが……」
 
そこで、ふと、頭の中にアーニャの声が蘇った。
自業自得……馬鹿…頑張って……そして――――
 
――この前のアイツだろ?手配画像よりずっといいな。ああいうのタイプなんだ――
 
軽い気持ちで言ったつもりだった。戦ったら楽しそうで、確かに魅力的な女性ではあったけれど、恋愛対象なんかじゃない…いや、ひょっとしたら、それを口に出す事でスザクに嫉妬させられたら、と思ったのは認める。だけど……そんな、それだけで?
 
それだけで、誰かにその身を委ねたのも、―――誤解と…つまりは自分達の仲を否定するような、そんな事を言われるなんて納得できない。認められる事など出来る筈もなかった。
 
「っ…んだよ!…どういう事なんだよ、スザク……スザク……スぅうザぁあクぅうううううう!」
 
ショックを受けると、足を動かす事が出来なくなるんだなと、遠くでぼんやり思いながらジノは思いきり床に拳を叩きつけた。血が出るまで何度も。


―――――――――――

今更ネタ……続くかどうかは未定。
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