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マオスザ/マオ別人注意報/クリスマス小話



########
 
 頭を撫でられる。
 その心地は、もし猫が撫でられたら、こんな気持ちなのだろうかと。
 そう思わせる心地よさだった。
 
 『あ…少し気持ち良さそう。』
 『髪のさわり心地いいな…』
 『寝る?寝そう?』
 
 たまに聞こえてくる心は眠気を誘う。
 
 全然似てもいないのに、あの人の声に少し重なった。
 
 
 
 
 
 
 そもそも初めは、何とも思っていなかった。
 C.C.を奪ったあいつが大切に思っていて、たまたま妹より壊しやすそうだった。
 だから浚った。
 
 浚ったら浚ったで、やたらぐちゃぐちゃしていて、気持ち悪かった。
 だから、興味はなかったけれど、どちらかと言えば嫌いだった。
 だって、煩い。
 
 でも、壊れやすいと思っていたのに、逆にしぶとかったらしい。
 後少しの所で心が壊れない。
 前みたいに、目を見開いてパニックになる事もなくなった。
 表情だけ、だんだん減った。
暇で気が向いたら、心を深くまで耳を澄まして責めるけど、何時からか、にこにこ微笑んでる顔しか見たことがない。
殴れば痛そうに眉をひそめたりはするけれど、基本的にふんわり笑ってる。
 どんな顔をしていても、心は聞こえるから関係ない。
 でも、その笑いに、少し苛苛した。
 
 苛苛していたけれど、ボクの力を感付いたあたりで、コイツは変わった。
 深くまで耳を澄ませば、ドロドロで気持ち悪いけれど、耳を澄ませなければ、静かだ。
 ほとんどが、何も考えていなくて、ぽっかりとしている。
 こんな人間は初めて会った。
 一回、なんでそんなに何も考えていないかって聞いたことがある。
 
 「禅って知ってる?そういうのがあるんだ。精神統一とも言われてるけど。」
 
 「はぁ~?なにそれぇ?何も考えてないって事はセーシントーイツってぼ~っとしてるってコトぉ~?」
 
 「簡単に言うと、語弊があるけど、そうなのかな?」
 
 「ふーん?イレブンって変わってるねぇ~」
 
 その言葉にスザクはいつもの笑みで心の中だけで苦く笑う。
 
 『でもね、これって中華連邦で成立したんだよ。』
 
 「ボクは人とあんま会ってないから~知~ら~な~い~」
 
 『……僕と同じだ』
 
 話し掛ければ、口にしていないつもりでも頭に浮かぶ言葉は聞こえる。
 同じじゃないと反発したかったけど、それを前にしたら、少し寂しそうにしていたから言うのを止めてあげた。
 
 人の気配があって、でも煩くなくて、声があんまりしない。
 快適だと思った。
 そんな時間を過ごせたのはC.C.と二人で山にいた時以来だ。
 それに、撫でる手が、キモチイイ。
 C.C.が、よくこんな風に撫ぜでくれた。
 
 
 
 
 
 
 「ケーキって食べる~?」
 
 『ケーキ?』
 
 正座して瞑っていた目がすっと開く。
 居眠りしてそうなのに、実は寝てないってわかったのはけっこう最近だ。
 タヌキ寝入り、タヌキ寝入りじゃないって言い合ったのは楽しかった。
 
 「なんか、赤い帽子かぶった爺さんが売ってたんだよ。」
 
 「そっか、クリスマス…もうそんな時期なんだ。ここは寒くないね。」
 
 「ダンボー入ってるからねぇ。外は寒いよ~。クリスマスってナァニ?」
 
 いつもの笑みでも心に翳りがさす。
 
 『そう…君は、クリスマスも知らなかったんだね。』
 
 同情する声にムカついた。
 
 「聞こえてるよぉ~?」
 
 「ごめん。」
 
 指摘すれば、素直に、何時もの笑みのまま謝る。
 それでも、反省しているように見えるから不思議だ。
 
 「クリスマスっていうのは、良い子にしてたらサンタクロースっていうお爺さんがプレゼントをくれるんだよ。元は、イエス・キリストっていう偉い人が生まれたお祝いの日。」
 
 「ふ~ん。なんで、その爺さんはプレゼントくれるのぉ~?ボクは貰ったことないよ?」
 
 それに笑みはそのままで、スザクは声を立てて笑う。
 
 「君が良い子にしてなかったからじゃないかな?人を誘拐しちゃうくらいだしね。」
 
 ガチャリと手についた枷の音をわざと立てる。
 
 「良い子にしてた時も、もらった事がない。」
 
 そうだ。いろいろと煩い音も頑張って我慢したし、C.C.の言う事だってちゃんと聞いてたし、C.C.をずっとずっと大人しく待ってた時もあった。
 けれど、プレゼントなんて貰ったことがない。
 
 ボクはどんな顔をしていたんだろうか?
 スザクが近寄る。心と本当の声が聞こえる。頭を抱き寄せられて、何度も頭を撫でられた。
 
 『サンタクロースは、家族なんだ。父さんや母さんがサンタクロースからっていってプレゼントを渡す。』
 
 「君は、山に住んでいたんだろう?だから、きっとサンタさんがうっかり忘れちゃったんじゃないかな。」
 
『僕も貰った事なんてないんだよ、マオ。』
 
ゆったりと頭を撫でる手は心地がいい。ささくれる心がゆっくりと落ち着く。
 
「ならボクもスザクと同じだねぇ~?」
 
聞こえた声に言葉を返せば、ゆっくりとスザクは頭を振った。
 
「違うよ、マオ。僕の場合は、サンタがいたとしても、良い子じゃないからプレゼントは来ない。」








 ソレを買ったのは、なんとなくだった。
キラキラしてて、でも眩しすぎない深みのある緑色の石っころ。
C.C.の髪の色より濃い色で、スザクの目の色に似ていて気に入った。
 
プレゼントが来ないとふわふわ笑って断言したのが気に食わなかったといえば気に食わなかった。
だからかもしれない。
 
サンタクロースっていう格好をした爺さんが売ってるケーキとおにぎりとインスタントの味噌汁も買って帰った。
ゲットーに売ってるおにぎりと味噌汁を前に買ったら喜んでいたからだ。
冷たいごはんなんて、中華連邦じゃ考えられないけど。
やっぱり変わっている奴なんだろう。
 
「これ。」
 
『何?』
 
 手を差し出すと、スザクは何だろうかと目と心で聞いてきた。
 
 「良い子にしてたらプレゼントが来るんでしょ~ここに来てから逃げずに良い子にしてるからさぁ。」
 
ころんと転がる石っころを見てスザクは驚いた。
やっぱり口も顔もいつもの笑み。でも心で聞こえる。
 
「これ…僕に?」
 
「そうだよ。気に入らない~?」
 
判っているのにボクは聞いた。
心が聞こる。
いつもボクを気遣ってたのか、ぐちゃぐちゃとした心が押し寄せて耳にくる。
疑問と絶望と戒めと叱責―――でも、嬉しさが奥底がら聞こえてくる。
本人は気づいているか知らないけれど、耳を澄ませばボクには解る。
だから、肉声で聞きたいと思った。
 口からでた言葉で聞きたかった。


 「…ありがとう、マオ、嬉しいよ。」

 ぼろりと大きい目から何時もの表情なのに涙が毀れる。
 買った石っころより綺麗だと思った。
 大切そうに両手に包んでスザクは握り締める。
 買ってよかった…と、思っているんだろう、多分、ボクは。

 止まらない涙が恥ずかしくなってスザクは顔を俯けた。
 それでも、心の音は聞こえる。複雑に絡む音がする。
 後悔、懺悔、哀惜、断罪…でも確かに、喜びと感謝の音が大きくなってくる。
 それがとても嬉しかった。

 しばらくして、スザクは顔をあげて、ボクに向かって手を伸ばす。
 頭をなでて、頬を優しくなでる。
 やっぱり、その手は暖かくて優しい。涙で少しべとついてはいたけど。
 C.C.が少しだけ、ほんの少しだけ重なった。

 「マオ、でも、僕は君に何か物をあげる事は出来ないんだ。」

 そりゃそうだろう。手枷をつけて、ここに閉じ込めているのはボクだ。

 「…だから、僕に出来る事なら、何でもするよ。何かしてあげられる事があるなら何でも。」

 特に見返りを求めていたわけじゃない。
 別に何かが欲しかったわけでもない。
 でも、して欲しい事があったわけでもなかったけれど、あんな事を頼んだのはきっと、C.C.がいなかったからだ。

 だから。


 「そう~?ならさぁ~―――――――」
 
 
 
 
 

 あいつを呼ぶ声が聞こえるってわかっていても、後悔はしなかった。
 だって、なでる手が気持ちいい。
 昔、穏やかに暮らしてた思いが過ぎるけれど、それとは違う。

 『あ、そろそろ寝そう?』

 髪を梳く手が止まらない。
 
 殆ど何も紡がない心が気使い気に小さく紡ぐ言葉が耳に心地よかった。

 『目を閉じてると、子供みたいだ…』

 それには言い返したい。
 ど
う見ても、ボクよりスザクの方が子供っぽく見える。
 でも、まどろんで目が重くて、口を開くのも億劫だったから、起きたときに言う事にする。


 『おやすみ、マオ』







 落ちる意識の中、もう、スザクの声は、
C.C.と重ならなかった。


―――――――――
マオが別人だけどきにしない。
クリスマスを大分すぎたけど気にしない。
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